[大弦小弦]姉から先日、実家に保管されていた…

引用元:沖縄タイムス

 姉から先日、実家に保管されていた大量の私物が送られてきた。中高校時代の写真から手紙、生徒手帳まで、2年前に亡くなった母がしまっておいたものと知り、不義理をしたわが身を省みる

▼死に際に立ち会えず、言葉を交わせなかった悔恨はきっと、ずっと消えない。だが、生前に時間を巻き戻したい思いはあっても、人工知能(AI)で故人を再現する動きには違和感を覚える

▼1989年に亡くなった美空ひばりさんの「新曲」が昨年末の紅白歌合戦で披露された。今月末には漫画家、手塚治虫さんの「新作」が雑誌に掲載される。手塚作品を学習したAIが作ったシナリオやキャラクターを基に、クリエーターが仕上げたという

▼「私の分まで、まだまだ頑張って」はAI美空ひばりのせりふ。生きている者にとって都合がいいように、故人の言葉を創作することに危うさを感じる

▼死者はままならない存在だと語るのは東京工業大の中島岳志教授。東京新聞で「死者を利用の対象とするとき、私たちは過去を軽視し、現在を特権化する」と警鐘を鳴らした

▼波瀾(はらん)万丈の生き方を含めて、ひばりさんが好きだった母は「涙を流しても歌声はぶれない。本当のプロ」と感嘆していた。声や作品を素材にして、故人の思いとは無関係に「新作」を生みだすことにリスペクトはあるのだろうか。(大門雅子)

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